工房を訪ねて(ふくら舎スタッフが直接工房へお伺いして直に話を聞いてきた。)

工房を訪ねて〜上江洲茂生さん(茂生窯)4〜


文/中江裕司(映画監督・ふくら舎仕入担当)


 


 仕入れ業者として上江洲茂生さんの窯出しにおじゃました。窯出しは、窯で焼いたばかりの陶器を、業者が仕入れるというもの。







 早めに着いた私の顔を見るなり、茂生さんは私の手を握り、「不安でね、一人でいると辛くて、来てもらってうれしいよ」と、おっしゃる。「本当は、窯を開けないで逃げだしたいけれど、そうも出来んさぁね」よほど不安なのか、少し離れた窯に近寄ろうともされない。そんな茂生さんの気持ちは、私にも心当たりがある。私も映画が完成した後の最初の試写は、逃げ出したくなる。回りの期待が高まるほど不安は増す。例え失敗していても、直すことも許されない。茂生さんの場合は、炎という気難しい自然が相手。逃げ出したい気持ちは、私の比ではないだろう。




 時間になり、常連の業者が茂生さんをせきたてる。ついに覚悟が出来たのか、「行って来ようね」と窯の方に向かわれる茂生さん。背中が辛そうだ。私たち業者が、窯に近づくのはルール違反。工房で待つこと三十分、コンテナに入った陶器が運ばれてくる。一の袋(一番下の室)の陶器だ。





 いっせいに、業者たちが群がる。早いもの勝ちなのだ。新参者の私も、いっしょうけんめい気に入った器を確保する。それから約2時間、琉球王朝時代の伝統を色濃く残す器が次々に目の前に現れる。まだ暖かさが残る陶器に触れることは、琉球人の魂に触れる思いがした。すべての窯出しが終わり、他の業者は早々と帰る。呆然としている私を、茂生さんが窯の方に手招きしてくれた。





 暖かさ残る窯の中に家型の厨子甕が鎮座していた。小さな窓から差し込む光に照らされ、大きな屋根が飴色に輝いている。美しい。感動的な風景を前に、茂生さんは少し寂しそうだった。






 窯出しが終わった後、上江洲茂生さんの自宅に招かれた。茂生さんがペットボトルのお茶を入れてくださる。おいしい。窯出しで肉体労働をした後だからだろうか。もう、一口。やっぱりおいしい。湯飲みが違うようだ。もう一口。茂生さんの湯飲みが唇に絶妙に密着する。何の変哲もないペットボトルのお茶が魔法のように変わってしまう。茂生さんにこのことを話すと、わかってくれてうれしいという笑顔で「湯飲みは誰でも作れるよ。その飲み口がわかるまで何十年もかかったよ。使っているうちに味が出てくるし、愛着もわくよ」




 茂生さんのヤチムン(陶器)は、派手さがない。沖縄の土産店に並んでいても目立たないだろう。しかし、使っているうちに自分のものになってくる良さがある。今、売れることを考えるのではなく、使う人の家で何十年経った後のことを考えて作る。これが沖縄人の職人魂だろう。





 私たち沖縄県民は観光立県としてもてはやされ、どれだけたくさんの魂をお金と交換してしまったのだろう。沖縄らしきものばかりが、街にあふれている。私は、本物を作っている人を紹介し、本物だけを扱わねばならない。沖縄の風土を切り売りして、消耗させる訳にはいかない。映画を作るにしても、ヤチムンを仕入れるにしても、沖縄の魂に触れることは変わらない。ふと、庭を見るとたくさんの木があちこちで育っている。私も植物が好きだと茂生さんに言うと、「買って植えたものではないよ。勝手に生えてくるのさぁ。なんか、あんたとは、はじめてあったとは思えないよ。昔からの友達みたいさぁ」と、言っていただいた。




【工房を訪ねて〜上江洲茂生さん(茂生窯)〜 了】




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